大阪地方裁判所 昭和40年(行ウ)12号 判決 1966年5月09日
大阪市都島区御幸町一丁目一番地
原告
吉林勇
被告
旭税務署長
白井政男
右指定代理人検事
川村俊雄
同法務
事務官 武部文夫
同大蔵
事務官 藤原末三
同
本野昌樹
右当事者間の昭和四〇年(行ウ)オ第一二号更正決定処分取消請求事件について、当裁判所ほ次のとおり判決する。
主文
被告が昭和三九年一月二五日付で、原告の昭和三七年度分の所得税につき、その所得金額を金一、一三八、〇〇〇円としてなした更正決定のうち、所得金額一、〇八八、〇〇〇円を超える部分ほ、これを取消す。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用ほ原告の負担とする。
事実
第一、申立
(一) 原告の求める裁判
被告税務署が、昭和三九年一月二五日付で、原告の昭和三七年度分の所得税につき、その所得金額を金一、五九〇、三〇〇円(ただし、大阪国税局長の裁決により金一、一三八、〇〇〇円に減額)としてなした更正決定のうち、所得金額金五五〇、〇〇〇円を超える部分は、これを取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決。
(二) 被告の求める裁判
原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決。
第二、主張
(一) (請求原因)
一、原告は、運送業を営むものである。
二、原告は、昭和三八年三月一五日、被告税務署長に対し、原告の昭和三七年度分の所得税につき、その所得金額を金五五〇、〇〇〇として確定申告したところ、被告税務署長は、昭和三九年一月二五日付をもつて、右所得金額を金一、五九〇、三〇〇円とする更正決定をなした。
三、そこで原告より被告税務署長に対し、昭和三九年二月二四日右処分について異議の申立をしたところ、その翌日から起算して三月を経過する日までに異議決定がなされなかつたため、国税通則法八〇条一項一号により、同年五月二五日大阪国税局長に対し審査請求がなされたものとみなされ、かつ、同年一一月四日原処分を一部取消し、原告の右所得金額を金一、一三八、〇〇〇円とする旨の裁決がなされた。
四、しかし、原告の昭和三七年度分の所得金額は、金五五〇、〇〇〇円であるから、右更正決定のうちこれを越える部分は違法である。
五、よつて、その部分の取消しを求めるため本訴に及んだ。
(二) (答弁)
一、原告主張の請求原因第一ないし第三項の事実は認める。
二、しかしながら、原告の昭和三七年度分の所得金額は事業所得および譲渡所得の合計額金一、一三八、〇〇〇円であるから、被告のなした右更正決定はなんら違法なものではない。その詳細は以下のとおりである。
(1) 事業所得 金五五〇、〇〇〇円
原告の営む運送業より生じた昭和三七年度の事業所得の金額は、金五五〇、〇〇〇円である。
(2) 譲渡所得(課税所得) 金五八八、〇〇〇円
原告は、昭和三七年一二月一日、その所有にかかる別紙目録記載の建物(以下本件建物と略称する)を、その敷地の借地権とともに訴外蛇の目ミシン工業株式会社に譲渡したが、右資産の譲渡によつて生じた譲渡所得(課税所得)の金額は次のとおり金五八八、〇〇〇円である。
(イ) 総収入金額 金五、三〇〇、〇〇〇円
本件建物の譲渡価額は金五、三〇〇、〇〇〇円であるから、原告が右譲渡によつて収入すべき金額は右同額である。
(ロ) 取得に要した金額 金三、五〇〇、〇〇〇円
原告は、昭和三七年一月頃訴外宮畑こはるから本件建物を買い受けたものであつて、その買入代金は金二、九〇〇、〇〇〇円であるが、このほか原告は、右買入れについて仲介人である丸善商会こと池野雅之に対し仲介手数料として金三〇〇、〇〇〇円を、また地主に対し借地権譲渡の承諾料(名義書換料)として金三〇〇、〇〇〇円をそれぞれ支払つているから、右の合計額金三、五〇〇、〇〇〇円が本件建物の取得に要した金額である。
(ハ) 設備費・改良費 金二二三、九四〇円
本件建物の取得後、原告がこれについて支出した設備費・改良費の額は金二二三、九四〇円を超えるものではない。
(ニ) 譲渡に要した費用 金二五〇、〇〇〇円
本件建物の譲渡に要した費用は、原告が仲介人である丸善商会こと池野雅之に支払つた仲介手数料金三〇〇、〇〇〇円のうち金二〇〇、〇〇〇円と雑費金五〇、〇〇〇円の合計額金二五〇、〇〇〇円である。
(ホ) 特別控除額 金一五〇、〇〇〇円
譲渡所得の金額=(イ)-{(ロ)+(ハ)+(ニ)}-(ホ)
<省略>
(但し100円以下切捨)
(三) (被告の答弁に対する原告の主張)
一、昭和三七年度における原告の事業所得の金額が金五五〇、〇〇〇円であること、原告が昭和三七年一二月一日本件建物をその敷地の借地権とともに訴外蛇の目ミシン工業株式会社に譲渡したこと、その譲渡価額が金五、三〇〇、〇〇〇円であることはいずれも認めるが、その余の点は争う。
二、すなわち、本件建物の取得に要した金額は金三、六〇〇、〇〇〇円、また譲渡に要した費用は、仲介手数料金三〇〇、〇〇〇円と雑費五〇、〇〇〇円の合計額三五〇、〇〇〇円である。
第三、証拠
(一) 原告
乙第一ないし第三号証の成立を認めた。
(二) 被告
乙第一ないし第三号証、第四号証の一ないし五、第五号証の一ないし八、第六号証の一ないし三を提出し、証人宮畑こはる、同中村春人、同五味功の各証言を援用した。
理由
一、原告主張の請求原因第一ないし第三項の事実については、いずれも当事者間に争いがない。
二、しかるところ被告は、原告の昭和三七年度分の所得金額は事業所得および譲渡所得の合計額金一、一三八、〇〇〇円であるから、本件更正決定はなんら違法ではないと主張し、原告はこれを争うので、以下この点について判断する。
(1) 事業所得
原告の営む運送業より生じた昭和三七年度の事業所得の金額が金五五〇、〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。
(2) 譲渡所得
原告が昭和三七年一二月一日その所有にかかる本件建物をその敷地の借地権とともに訴外蛇の目ミシン工業株式会社に譲渡したこと、
(イ) 総収入金額
その譲渡価額が金五、三〇〇、〇〇〇円であることは、いずれも当事者間に争いがない。
(ロ) 取得に要した金額
成立に争いのない乙第二号証、証人宮畑こはる、同五味功の各証言および弁論の全趣旨を総合すると、原告が昭和三七年一月頃訴外宮畑こはるから本件建物を買い入れ、その買入代金が金二、九〇〇、〇〇〇円であつたこと、原告が、右買入れについて、仲介人である丸善商会こと池野雅之に仲介手数料として金三〇、〇〇〇円を、また地主に借地権譲渡の承諾料(名義書換料)として金三〇〇、〇〇〇円をそれぞれ支払つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。もつとも、右各証言によると、原告より地主に対し、右承諾料のほかにさらに金一〇〇、〇〇〇円の金員が支払われた事実が現われるけれども、右金一〇〇、〇〇〇円は本件建物の敷地を賃借するについての敷金として地主に交付されたものであつて、右賃貸借の終了と同時に賃借人たる原告に返還さるべき性質のものであることが認められるから、本件建物の取得に要した金額としては、前記買入代金、仲介手数料および地主の承諾料の合計額金、三、五〇〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。
(ハ) 設備費・改良費
証人中村春人、同五味功の各証言を総合すると、本件建物の取得後、原告が右建物について修理もしくは改造をなしたような事実がないことが認められ、右認定に反する証拠はない。もつとも、右五味証人の証言によると、本件更正決定についての審査請求に対する裁決において、本件建物の設備費・改良費(減価償却費を控除したもの)として金二二三、九四〇円が認められたことは明らかであるが、同裁決において右のごとき設備費改良費が認められたのは、原告において真実本件建物について修理もしくは改造を加えた事実があつたからではなく、本件建物の取得後、原告が営業用自動車の増車申請をなした事実があつたことを関知した協議官が、右の事実から、増車分の自動車を格納すべき車庫の改造工事がなされたやも知れない旨の推測をなした上、右推測にかかる程度の改造工事の費用として見積つた金額を本件建物の設備費・改造費として認容することとしたものであるにすぎないことが認められるのであつて、右認定に反する証拠はなんら存しないのである。しかしながら、右の設備費・改良費(減価償却費を控除したもの)金二二三、九四〇円は、本訴においても被告の自認するところであるから、前記認定にかかわらず、これを本件建物の設備費・改良費と認定するよりほかはない。
(ニ) 譲渡に要した費用
原告が本件建物を譲渡するについて、仲介人である丸善商会こと池野雅之に仲介手数料として金三〇〇、〇〇〇円を支払つたほか、雑費として金五〇、〇〇〇円を支出したことは被告の自認するところであり、原告が右譲渡に要する費用としてそれ以上の金額を支出したとの点については、なんらの主張も立証も存在しない。しかるところ被告は、右仲介手数料のうち金二〇〇、〇〇〇円と雑費金五〇、〇〇〇円との合計額二五〇、〇〇〇円が譲渡に要した費用であると主張しているけれども、右金三〇〇、〇〇〇円の仲介手数料のうち被告の主張する金二〇〇、〇〇〇円を超過する金一〇〇、〇〇〇円がなに故に本件譲渡に要した費用たり得ないのか、これを詳かにすることができないのであつて、原告において金三〇〇〇、〇〇〇円の仲介手数料を支払つたとする以上、特段の事情のないかぎり(本件においてはかような特段の事情は認められない)、その金額全部が譲渡に要した費用となるものといわなければならない。そうだとすると、本件においては、右仲介手数料と雑費との合計額金三五〇、〇〇〇円が譲渡に要した費用というべきである。
(ホ) 特別控除額(所得税法(昭和二二年法律二七号)九条一項)金一五〇、〇〇〇円
(ヘ) 課税所得
以上のとおりであるから、本件建物の譲渡によつて原告に生じた課税所得は、次の算式のとおり金五三八〇〇〇円である。
<省略>
(但し100円以下切捨)
(3) 総所得金額
原告の昭和三七年度分の所得税の課税標準たる総所得金額は、右事業所得および譲渡所得の合計額金一、〇八八、〇〇〇円である。
三、以上のとおりであるとすると、右総所得金額を金一、一三八、〇〇〇円としてなされた本件更正決定のうち、右金一、〇八八、〇〇〇円を超える部分は違法であるからこれを取消すこととし、原告その余の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条但書を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石崎甚八 裁判官 藤原弘道 裁判官 福井厚士)
目録
大阪市東成区大今里本町一丁目五番地
(ただし、当時は六八九番地と表示)
家屋番号同町一、一五番の三
一、木造瓦葺二階建店舗
建坪 二階坪とも四坪七合
同所
家屋番号同町一、〇一五番の四
一、木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建
建坪 二階坪とも九坪
(ただし、その後、家屋番号一、〇一五番の四を同一、〇一五番の三に合併して一、〇一五番の四の建物を附属建物とし、さらにこれを合様の上増築をなした結果、現況は、木造瓦葺および亜鉛メツキ鋼板葺二階建店舗兼居宅、一、二階とも三〇坪八合となつている。)